«ファイティング スピリット»の抜粋、序文、六項

初めての練習の後に感じたのは開放感だった。目の前の大きな扉が開き、まばゆいばかりの光と澄み切った空気を体中に感じたような・・・
まるで寂しいことや悲しいことなんて存在しない世界に入ったかのように、その新鮮な風が私の暗く閉ざされた人生に息吹をもたらし、希望の光で満ち溢れ、やっと自分の進むべき道を見つけた喜びでいっぱいになった。
オオガメ島では学校やスポーツスクールは通常9月から新年度が始まるが、私が武道を始める決断をしたのは11月だった。
幼稚園の頃から島の幹部候補生として様々な訓練と修行を受けてきたので体力には十分自信があった。
しばらく練習したらすぐに上手になりみんなに追いつけると思っていたが、そう簡単にはいかなかった。

ある日、レミはいつもの木陰のテーブルについていた。
しばらくしてあのアメリカ人が現れた。背が高く体格の立派な目の青い金髪の人だ。
「こちらはドナルドソコルさん、宜しくね」レミは彼のことを紹介した。
ジャケンとカリーナはその人をじっと見つめた。
確かにハンサムで誰もが羨む理想的な男性だったが、レミはあえてそういうタイプを好まなかった。
ジャケンとソコルは握手を交わした。
「先生今日も素敵ですね。」テーブルにつくなりアメリカ人は言った。
それを聞いたカリーナはレモンケーキにむせた。
「いやみな奴な。」ジャケンはカリーナの背中を軽く叩きながら呟いた。
「ちょっと様子を見ましょう。じきに何が狙いなのか分かるわ。」カリーナも囁いた。

ソコルのお世辞に耳も貸さずに遠くを眺めていたレミが突然彼を見つめてこう切り出した。
「何かあったのでしょう?」
ソコルはビックリして本題に入った。
「近東にある私の油田は突然枯れました。理由はまだ分かりません。」
「冗談でしょう?!」
「本当です。」
「いつからなの?」レミは神経質に尋ねた。
ソコルは深いため息をつきながら話し続けた。
「一年くらい前からです。これ以外にも不可解な現象は山ほどあります。」
「何か私にできることがあるの?」
「専門家によると、オオガメ島近くに最近できたエネルギーのブラックホールが原因で油田が枯渇したということです。ですからこれはぜひあなたの耳に入れておいたほうがよろしいと思いまして。」
「それを立証する報告書とか分析結果はあるの?」
「こちらです。」ソコルは分厚い書類フォルダをレミに手渡した。
「念のためソフトコピーもあります。地図と細かい分析結果も全て入っています。」
「了解。今は何も言えないけど、来週東京で行われるこういった現象についての会議に参加するつもりだから何かわかったら連絡するわ。もしかしてあなたも行った方がいいよ」
「私も行くつもりです。」
「そういえば、合気道スクールはうまくいってます?」
「はい、おかげさまで。つい先日の大会では半数のメダルをうちの生徒が取りましたよ。」ソコルは誇らしげに答えた。
「ご自身も?」
「私自身はなかなか・・・」ソコルは伏し目がちに答えた。
「じゃぁ東京で一緒に稽古しましょう。」
「そうですね、あちらで会いましょう!」そう言うとソコルはアシエンダを後にした。
ソコルの車のエンジン音が聞こえなくなると、レミとカリーナとジャケンは食卓に戻った。
近所の道場から「メン!」「コテ!」「ドウ!」と威勢のいい声が聞こえてきた。剣道の練習が始まったのだ。

絵画: ヂューモン・アルチョム
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